Global Career Guide
日本では、アメリカのロースクールを真似た法科大学院の崩壊が叫ばれていますが、本家のロースクールも危機的状態にあります。アメリカのロースクールは、右のグラフにあるように、過去10年ほど応募者が減少の一途で、2013年も、前年比2割減で、2010年に比べると38%減少し、過去30年で最低となりました。
2010年に比べ、入学者が40~55%減ったというロースクールもありますが、こうした傾向は、とくにランクが中~下位の学校に顕著で、ハーバードやイェールなどの有名校では、あまり落ちていません。
入学者が激減しているロースクールでは、経費削減のために、教授やスタッフの首切りを始めているところもあり、この先10年で、ロースクール10校が廃校するとの予測もあります。
ロースクールへの応募者が激減している理由は、学費が高額であるにもかかわらず、卒業しても就職できないというのが大きな理由です。下記のグラフで見るように、2011年、卒業して9ヶ月以内にフルタイムの弁護士職(弁護士資格を必要とする職)に就けたの卒業生は6割を切っていました。
2001年、私立のロースクールの学費は年間平均2万3000ドルでしたが、2012年には4万500ドルに倍増しています。公立では、8500ドルが2万3600ドルと3倍近くに高騰しました。なお、イェールやハーバードなどの有名私立ロースクールの学費は、年間5万ドル以上で、州立大学でも有名校では5万ドル近くしています。生活費の高いニューヨークなどでは、生活費も含めると年間8万ドル以上かかるといわれます。
そして、ロースクールの学生の9割が学資ローンを借りており、私立の場合、平均借金額が2001年には7万ドルであったのに対し、2011年には12万5000ドルに膨れ上がっています。
20万ドルの学資ローンを抱えながら、弁護士試験に受かって弁護士資格をとったにもかかわらず、派遣職やウエイター、ベビーシッターをして食いつないでいるという人たちがいるのです。
インターネットの発達により、オンラインでリサーチが手軽に迅速にでき、法的書式もオンラインで入手できるようになりました。他の業界と同様、単純作業はテクノロジーに置き換えられたのです。そこに金融危機による不況で、2008年からレイオフや早期退職などで大手法律事務所での弁護士を含む1万5000の法務職 が消えたといわれています。経費削減のために、大手法律事務所では、初級業務には派遣会社の派遣弁護士を使ったり、海外にアウトソースするようになりました。
それにもかかわらず、ランクが下位のロースクールでも、有名校と同様、「卒業すれば初任給16万ドル、卒業後9ヶ月以内の就職率9割以上」をうたっています。このアメリカ法曹協会の基準によって測られた就職率には、パートタイムで法曹職に就いていたり、弁護士資格を必要としないウエイターや小売販売員をしている卒業生も含まれているのです。
実際には、年10万ドルの初任給を得るには、トップのロースクールを出なければならないのですが、多くの若者がそうとは知らずに、多額の借金をして、中~下位のロースクールに入学するわけです。
私も、金融危機前に、全米上位10位に入る州立のロースクールを出たアメリカ人男性を知っています。大手法律事務所に就職し、初任給は12万ドルでした(まったく働いた経験がなかったというのに)。それから1年未満で、就職先が脱税容疑で廃業を余儀なくされたのですが、すぐに転職先が決まり、年収は16万ドルに跳ね上がりました。ただし、彼も、卒業時点で、9万ドルの学資ローンを抱え、すでに養わなければならない妻子がいました。
一方、30歳を越えてから、キャリアチェンジをして、弁護士資格をとったアメリカ人男性も知っていますが、上述の男性とは雲泥の差です。30を超えてから弁護士資格をとったような人材は、若手弁護士の登竜門である大手弁護士事務所では求められません。そこで、その弁護士は個人事務所を経営していましたが、そうなると自分で営業もしなければなりませんし、クライアントは個人や中小企業です。その弁護士は、常にクライアントからの料金回収に苦労していました。(つまり、クライアントに踏み倒されるケースが多いのです。)
前回、紹介した友人の奥さんは、無名のロースクールを中退し、別の道を歩みましたが、さっさとキャリアチェンジをしたのは正解だったといえるでしょう。
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。