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業界の先を見抜く(1)

業界の先を見抜く(1)

以前、「アメリカの新聞業界は崩壊している」と書きましたが、将来の進路を考える上で参考になるかもしれないので、触れておきましょう。

今年、ワシントンポスト紙がアマゾンの創業者ベゾスに身売りをして騒がれましたが、「身売りするのはいつだ」と囁かれたニューヨークタイムズ紙は、傘下のボストングローブ紙をボストンレッドソックスのオーナーに売却しました。1993年に11億ドルで買収したのを7000万ドルで売却したのです。

米新聞社の危機は、最近、始まったわけではなく、過去10年近く、倒産、売却、買収の嵐でした。全米購読者数最大のウォールストリートジャーナル紙を所有するダウジョーンズは、2007年に、マードック率いるニューズコーポレーションに買収されました。全米で購読者数4番手のロサンジェルス・タイムズなどを傘下におさめる全米第二大手のトリビューンカンパニーは、2008年に買収された後、2009年に破産申告しました。(創刊100年以上になる)クリスチャン・サイエンスモニター紙のように紙版は廃刊し、電子版のみに移行した新聞社もあります。

発行部数30万部ほどの地方の新聞社では、身売り、倒産、廃刊が相次ぎ、2009年には、米上院議員が新聞社は、数々の税金優遇措置を受けられる非営利団体としての再編成を許されるべきという法案を提出したくらいです。

売上暴落で雇用減少

過去30年、アメリカでは新聞の発行部数は3割減少し、紙媒体の広告売上も、過去5年で6割下落しました。アメリカの新聞は、購読収入よりも広告収入に大きく依存し、売上の半分以上を占めていたため、ネットへの広告移行の打撃を大きく受けたのです。(ちなみに、2012年、グーグルの広告売上が、米新聞全体、および米雑誌全体の売上を抜きました。)

それに伴い、新聞社のフルタイム(正規雇用)の編集職も、過去6年で3割ほど減少しました。

参考資料:Statista [U.S. Newsroom Employment Down to 30-Year Low]

インターネットが登場し、「いずれ紙の新聞はなくなる」と言われて20年近くになります。その間、新聞社はネット課金を導入したり、広告をネットに移行したり、一応、ネット時代への対応を試みたものの、大規模なてこ入れはしてきませんでした。(売上が下落し、従業員のレイオフが相次いでも、経営陣らは多額の報酬を受け続けましたから。) 
アメリカのコールセンターなどは、10年以上前からインドやフィリピンにアウトソースされていますが、新聞の編集校閲作業(copy editing)もインドにアウトソースする新聞社や、「記者が自分で書いた記事の編集校閲も行う。Copy Editorは不要」という新聞社も現れました。

同時に、ネット系メディアやブログが普及し、誰でも文章を書いて掲載できるようになり、記事を読む方も、人材を雇う方も、書き手や編集者の経験を大して問わなくなったのです。つまり、こうした職種自体が滅亡の危機にあるといっても過言ではないでしょう。 

(次回へ続く)

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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