Global Career Guide
先月、アメリカのオンライン調査で、「同僚や上司などにクリスマスプレゼントを買う人が40%」もいるという結果が出ていて驚きました。「プレゼントを買う」と答えた人のうちの「66%が同僚に、44%は上司に渡す」と答えたということです。同僚へのプレゼントの平均額は46ドルとのことですが、皆さん、同僚に5000円近くもするプレゼントをしたことありますか?
アメリカでは、出張や旅行に行った際に、勤務先におみやげを買ってくるという習慣はありませんが、昔、秘書付きレンタルオフィスを借りていた頃、私は受付やオフィスマネジャーなどに、日本に行く度におみやげを買ってくることにしていました。最初に渡したとき、彼女たちの態度が非常に友好的になったからです。とくにマネジャーに気に入られていた私は、家賃を安くしてもらったり、いろいろ便宜を図ってもらいました。反対に嫌われていたテナントは、電話をちゃんと取り次いでもらえないどころか、マネジャーと一年におよぶバトルに破れ、たたき出された人もいました。
こうした職場での潤滑油的な行為は”Office Schmoozing”と言います。”Schmooze”とは「便宜を図ってもらうために友好的に接する」という意味です。(”Schmooze”の定義はUrban Dictionaryに載っているものが一番現実を反映しています。)「便宜を図ってもらう」というと響きがよくありませんが、ビジネスにおいて何らかの人間関係を構築しようとする場合、「注文をとる」「融資を得る」など事業上の目的があるのは当然で、Schmoosingも一種のNetworking、Relationship Building(人間関係構築)といえるでしょう。
テクノロジーの発達で、今は受付や秘書は減ってしまいましたが、売り込みのために意思決定者に接触しようとするセールスマンなどを、昔は彼女らがGatekeeper(門番)として阻止したり、ふるいにかけたりしていました。そのため、意志決定者(Decision Maker)に通してもらうため、その秘書やアシスタントに気に入られようと皆、Schmoozingに務めたわけです。たとえば、相手企業を訪問した際、世間話をしたり、誕生日を覚えていたり、クリスマスなどには、ちょっとしたプレゼントを持って行ったりといったようなことです。まずは、名前と顔を覚えてもらうことが肝心ですから。
就活だって同じです。いかに、採用の意志決定者の目にとまるか、意志決定者と直接やりとりできるパイプを得るかが肝心です。
IT業界では、元アップル、昨年、グーグルが買収したモトローラ・モビリティ社にアドバイザーとして加わったガイ・カワサキ氏を知らない人はいないと思いますが、同氏が2006年にブログで”Art of Schmoozing”について書いています。「売り込んだり、提携したり、合弁するのに、今、会ったばかりの人よりも、すでに知っている人との方がやりやすい。だから、Schmoozingして関係を構築しろ。それも、それが必要になる前に」と。
同氏は、「Schmoozingはアナログ作業で、電話やコンピューターを通じてできるものではない。マイスペース(今ならフェイスブック)やスカイプを通じて知り合った人が大きな注文をくれることはない。苦手でも、展示会やセミナーなどに出向いて、実際に人と触れること」とも言います。
私は、10年以上前でも、実際に会ったことのないクライアント企業からウェブを通じて受注し、一度もお目にかからずに仕事を完了したことが何度もありますし、近年では、ソーシャルメディアを通じて知り合った人とプロジェクトをやったこともあります。このデジタル時代に、実際に会わないと受注や協働ができないことはないでしょう。
しかし、前回のアクセンチュアのように、同社に応募するのに社員に紹介してもらう際、リンクトインでつながっているだけで実際に会ったこともない人を紹介してくれるのでしょうか?ソーシャルメディアだけでなく、リアルで知っている人がいれば、そちらを推すのではないでしょうか?
どれだけソーシャルメディアが発達しても、そうした人間関係の基本は変わらないと思います。だから、Schmoozingは、これからも必要でしょう。
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。