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さて、前回、90年代から営利大学が台頭したと書きましたが、1998年~2008年の10年で、高等教育機関の生徒数の伸びが31%であったのに対し、営利大学の生徒数は225%も増えました。当時、数年で、年商が10倍、20倍以上にもなる営利大学もありました。
営利大学の収入源の大半が連邦政府の学資補助やローンから成り、株式上場の最大手営利大学では、それが年商の86%にものぼります。過去数年の大不況で失業率が増加し、再就職のために学校に入り直す人も増え、それが業界にとっては追い風にすらなりました。米連邦政府の補助金のおかげで、一大産業が創られたといっても過言ではありません。
2009年、フェニックス大学を所有するアポログループなどの株式公開営利大学企業のCEOの報酬は、平均730万ドルでした。(最大手公立大学5校の学長の平均報酬額は100万ドル。)
アメリカでは、政府が規制に乗り出すほど問題になっているのに、こうした営利大学に入学する人が後を絶たないのが不思議なのですが、営利大学に入学する学生の半数以上が、他の大学との比較を行わなかったという調査結果が出ています。営利大学に在籍中、また卒業した人でも、半数近くが”for-profit college”という名称を知らず、従来の大学との違いも知らなかったというのです。彼らの多くが、営利大学に比べ、学費が格段に安いコミュ二ティカレッジの存在を知らないといいます。
こうした営利大学が、夜間の授業やオンライン授業など、社会人学生のニーズに合った柔軟性に富んだプログラムを提供しているということが魅力のひとつとしてあるのですが、営利大学の入学に興味のある人の大半が「テレビのCMや他の広告を大学の存在を知った」ということです。
これも無理ないのかもしれません。というのは、営利大学の経費の内訳を見ると、売上の23%近くが広告・マーケティングや生徒勧誘に費やされ、19%が税引き前利益、17%が講義(講師およびカリキュラム)になっています。なお、2010年、営利大学の講師陣の8割以上が非常勤でした。つまり、生徒勧誘に重きがおかれ、肝心の教育が二の次、三の次になっているのです。
また、数年前、強引な生徒の勧誘方法も問題になり、採用担当者に入学させた学生に応じ報酬を支払ったり、担当者が学費を開示しなかったり、政府の学資援助申請の際に生徒に虚位の申請をさせたりしているのが発覚しました。
実は、元社員らから訴えられている営利大学もあり、元社員らの証言から、営利大学の詐欺行為が明らかになっています。たとえば、入学審査時のテストで点数を上乗せしたり、学校側で正解を書き込んだり、元々、大学の授業についていけないような生徒でも、学資ローンを借りさせ、入学させていたというのです。また前科があって、ある職種の免許を受ける資格がない生徒でも入学させていたというケースもあります。
さらに、連邦政府の学資ローンは融資額の上限が決まっているため、足らない分は、自校融資の高利のローンを借りさせる営利大学もあります。予想不履行率は42~80%だというのに。(この辺が、まさにサブプライム住宅ローンのよう。)
こうした背景から、今年、連邦政府が規制に踏み切ったわけですが、5年前にも同様の規制を施行しようとしたところ、ロビー団体である営利大学の業界団体に提訴され、阻止されました。今回も、業界団体が、施行阻止のために提訴するのは間違いないと見られています。
わざわざ日本から、こうした学費のバカ高い営利大学に留学する人はいないかもしれませんが、一時、「日本にいながらオンラインでアメリカの大学の学位がとれる」というので飛びついた人もいます。(実際に、私も、そうした大学で博士号を取得した日本在住の人を知っています。会社経営者で、その分野で博士号があった方が事業を展開する上で有利だと考えたのでしょう。)その後、日本でも”Diploma Mill”(学位製造工場)の存在が知られ、かつ今では有名校もオンラインプログラムを提供するようになったので、その価値は薄れたようですが、高い学費を払う前にしっかり調査されますよう。
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。