Global Career Guide
以前、就活の話で、ソー活、採用者側の視点での”Social Recruiting” について触れましたが(就活に欠かせないNetworking(3) ― ソー活) 、アメリカではソーシャルメディアを駆使した新たな求人方法を試す企業が登場しています。
Amazonが買収した靴ネット販売のザッポスが、自社のサイトを含め求人情報をネットに掲載するのを一切やめ、代わりに、求人のためのオンラインコミュニティを立ち上げました。
ザッポスへの入社希望者は、Zappos Insiders というオンラインコミュニティに登録して“インサイダー”となります。コミュニティに登録するには「テクノロジー」「マーチャンダイジング」などのチーム(部署)を選び、履歴書をアップロードするか、LinkedInまたはFacebookを通じて行います。
コミュニティに加入すると、“アンバサダー”と呼ばれるザッポスの採用担当者や他の社員のプロフィールが閲覧でき、メッセージを送ることができます。社員とソーシャルメディアでつながっていれば、その社員に照会を頼むことも可能です。
ただし、登録すれば採用担当者が目を向けてくれるわけではなく、入社希望者はコミュニティやソーシャルメディアを通じ、自己PRを示すことが求められます。ビデオカバーレターをアップロードしたり、採用担当者のTwitterをフォローしたり、隔週で行われるツイッターチャットに参加したりして、積極的に存在感を示すことが必要なのです。その他、FacebookやInstagram、Pinterestでも同社の社員と交流することも可能です。近日、グーグルハングアウトでも、採用担当者や社員らとリアルタイムでやりとりができるようになるそうです。
こうした新たな試みは 従来の履歴書を送ってもらってデータベースでスキャンするといった無味乾燥とした人事選考ではなく、入社希望者にはコミュニティを通じ企業風土を学んでもらおうという意図から生まれたものです。同時に、採用担当者はコミュニティでのやりとりを通じ、その人が企業風土に合いそうか、どのポジションにはまりそうかを見ることが可能です。そして、人材が必要になれば、コミュニティ参加者の中から適切な人材を選ぶというわけです。
ザッポスでは、2013年、3万1000人から求人応募があったそうですが、採用されたのは、そのうちわずか1.5%。採用されなかった人の大半は、データベースでふるいにかけられ、自動的に採用不可の通知が送られるのですが、こうした機械的な対応に悪感情を抱く人もいます(皆、よく、こうした不満をネットでぶちまけています)。彼らの中には、ザッポスの既存客、また潜在顧客もいることから、こうした事態は避けたいわけです。(某米大手銀行に応募しようとして「アイビーリーグ卒しかとらない」と断られ、「その銀行は一切使わない」という人を知っています。)
また、採用担当者が求人要件を満たさない応募者に無駄な時間を割くよりも、コミュニティで適材を発掘する方が効率がいいでしょう。さらに、企業が適格でない人材を雇ってしまった際のコストは、5万ドル以上になる場合もあるといわれており、適材適所を可能にすることによって離職率を下げる狙いもあります。
求職者にとっても、合わない企業に勤めてしまった場合のコストは高いですので、予め、その企業の風土や社員に触れられることにはメリットがあるでしょう。とくに「どうしても、この企業に勤めたい」という信者的な人にとっては有益なシステムだと思います。
“Talent Community”(人材コミュ二ティ)と呼ばれる、こうした新たな求人方法の成果が測られるのは、これからで、どれだけ広がるかはまだ未知数ですが、ネット関連企業への就職を希望する場合、ソーシャルメディアでの存在感を示すことは必須といえるでしょう。
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。