Global Career Guide
前回、マイクロジョブについて書きましたが、「好きなときに好きなところで、自分がやりたい仕事だけを引き受けて食べていけるなんてサイコー。会社なんて、さっさと辞めて、自分もマイクロワーカーになろう」と思う人もいるでしょう。が、ちょっと待った!
マイクロジョブで食べていける人も一部にはいるわけですが、それは需要の高いスキルを持っている人たち、フリーエージェント的に生きていける人たちです。概して、会社勤めをしていても重宝され、元々、稼いでいる人たちなのです。失業して、なかなか職が見つからない人、持っているスキルが古くて使いものにならない人は、マイクロジョブで食べていくのは至難の技でしょう。(「業界の先を見抜く(2)」で紹介したように。)
さらに、マイクロワーカーというのはフリーランスですから、福利厚生はありません。(フリーになったら、福利厚生分もまかなえるだけ、会社勤めの頃以上に稼いでいるべきなのです。)それどころか、独立業務請負人として任務遂行中の損害賠償責任までついてきます。
賃金が安くても福利厚生がなくても、若いうちは困らないかもしれませんが、結婚して扶養家族ができたり、年をとって健康に不安が出てきたりすると、生活は不安定になってしまいがちです。(年をとったフリーターには生活に困窮している人たちがいるように。)
とくに、前回、見たように、数セント~数ドルの単純作業を主に担っている人たちは、まず食べていけないでしょう。
マイクロワーカーは「自由な生き方」を標榜しながら、実は雇用主にとって体のいい低コストの使い捨ての労働力になってしまう可能性があります。雇用主にとっては、ネットで世界中から労働者を集め、必要なときにだけオンデマンドで、賃金の安い新興国にアウトソースする、または自国の労働者を新興国の労働者と競争させて安く使える都合いいの労働力です。(実際に、アメリカでは州制定の最低賃金以下の仕事も多く、独立業務請負人として、それを進んで引き受ける人たちがいるのです。)
仕事マッチングサイトでは入札形式のところもあり、誰でもできる仕事、供給が多ければ多い仕事ほど価格は下がる傾向にあるわけです。
都合よく搾取されないためには、提示された仕事を提示料金で請け負う、または競争落札して請け負うのではなく、需要が高くて単価の高いスキルを身につけ、他人と差別化して個人ブランディングし、自分で顧客を開拓し、付加価値のある仕事を創造できることが必要でしょう。
つまり、若いうちから自由を優先してしまい、稼げるスキルを習得しないと、長年、フリーで食べていくのは難しいということなのです。
実は、私も大学卒業後は一時、フリーな形で働いていました。働けば働くほど稼げたので、非常にやりがいがありました。私の場合、通訳・翻訳という仕事に向いてなかったので、(「給料だけで職選びをするのは間違い!」参照)その後、会社勤めをしましたが、ああした仕事が好きな人であれば、一生フリーとしてできた仕事だと思います。
私が会社勤めをしたのは数年でしたが、それでも、その後、独立するにあたって必要だったと思います。最初の1年近くは元雇用主に仕事をもらいましたし、独立後すぐにクライアントを得られたのも、元の仕事の人脈を通じてです。会社勤めの経験がなければ、独立してすぐに食べていくのは難しかったかもしれません。
今では仕事は探していないのですが、過去20年の仕事関係を通じ、何やかんやと仕事(マイクロジョブ)の依頼をいただきます。
英語では、”pay your dues”という表現があります。たとえば、悠々自適な生活のシニアの人に「いいな~」と言うと、”I paid my dues!”という返事が返ってくることがあります。”Dues”とは、元々、「会費、払うべきもの」という意味ですが、「今の権利・地位・ライフスタイルなどを享受できたのは、ちゃんとそれだけがんばったから、相応の苦労をしたから」という意味です。
Duesの払い方は人それぞれでしょうが、経済がいかにデジタル化しようが、私は人生のduesは払わないわけにはいかないと思っています。どうせ払うduesなら、若いうちに払っておいた方が後が楽だと思います。人生後半で払うduesは高くつきます。
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。