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海外にサービス残業はあるのか?(2)–独立業務請負人扱い

「サービス残業」からは少しずれるのですが、アメリカでよくあるのは、就労者を独立業務請負人(Independent Contractor)と位置づけ、残業代だけでなく、福利厚生も提供しないケースです。社員と肩を並べて同じ内容の仕事をしていても、独立業務請負人には有給も健康保険もストックオプションも提供されないのです。(日本の契約社員と似ていますが、契約社員の場合、一定の条件を満たしていれば社会保険の加入が義務付けられている点が違います。独立業務請負人は個人事業主ですので、各種負担や納税義務はすべて請負人の責任です。)

アメリカの場合、大半の人は雇用主を通じて健康保険に加入しており、個人で加入すると非常に高いので、健康保険の問題は切実なのです。健康保険のために、会社を辞めたくても辞めない人たちは珍しくありません。(私は自営業なので、長年、個人で加入していますが、「オバマケアができたでしょ」という人たちは、オバマケアの実態を知らない人たち。)

昔、マイクロソフトが、歳入庁(IRS)から「独立業務請負人扱いの就労者らは、実際には従業員なので給与税を払うよう」指摘され、給与税を払い、就労者には残業代を支払いました。そして、仕事を続けたい就労者には、新たに設立した派遣会社の社員になるという選択を提示しました。しかし、一部の就労者らから、勤務期間に対し社員と同様の確定拠出個人年金(401K)や自社株割引購入制度への加入を求められ、同社が拒否したところ、集団訴訟を起こされて、上告裁判所で就労者側が勝訴しました。

最近では、フェデラルエクスプレスに対し、長年、独立業務請負人として扱っていたドライバーは従業員であると、先月、上告裁判所によって判決が下されました。同社のドライバーの証言では、フェデックスのロゴ入りトラックもユニフォームもスキャナーも自前で、荷物が破損すれば弁償を余儀なくされ、多忙配送ルートでは休憩や昼食をとる暇もなく、繁忙期(クリスマス)には追加でドライバーを雇わないと回らないため必ず赤字に陥り、文句を言えば契約を解約される一方的な契約内容だそうです。(私も、この訴訟がニュースになるまで、同社のドライバーが社員でなかったとは知りませんでした。)

以前、紹介したマイクロワーカーも、独立業務請負人なわけで、中には社員と同じ仕事を社員より安い賃金でしている人たちもいます。(個人事業主として食べていくなら、社員時代の少なくとも2倍、できれば3倍稼ぐ必要があります。)

仕事マッチングサイト

フリーとして働く人は昔からいたわけですが、これまでと違うのは、テクノロジーの発達により雇用者と被雇用者がお互いを見つけやすくなったことでしょう。今では、スマホを通じて、雇用者は発注ができ、被雇用者は仕事を探せるのですから。 

日本でもクラウドソーシング系の仕事マッチングサービスはいろいろありますが、アメリカで一番知られているのは、最近、合併したeLance-oDeskでしょうか。ELance-oDeskはIT系専門職指向が強いですが、それ以外に、もっと単純作業的な仕事、便利屋的な仕事のマッチングサービスも登場しています。 

TaskRabbitでは、主に掃除、修理、お使いなど便利屋的なサービスを探している人と提供する人をマッチングするP2P(peer to peer)サービスとして始まりました。しかし、企業によるIT関連のプロジェクトなどもあり、TaskRabbitを通じて有名ソフトウエア会社のITマネジャーを短期で雇った会社もあるそうです。TaskRabbitでは、登録者の75%が大卒で、20%が修士号、5%が博士号を取得しているとのことです。 

同様のサービスのFiverrでは最低料金は5ドルからというのが売りで、社会科学の実験にも使われるAmazon Mechanical Turkでは料金が何セントの世界です(私に言わせると「デジタル内職」ですが、「デジタル搾取工場(digital sweatshop)」との声も)。新興国を含め世界各国の人たちに公平な賃金を払い、コンピュータースキルを身につけるチャンスを与えるとうたっているMobileWorksでは「就労者が生活しているだけの賃金を」とのことですが、先進国で食べていける水準ではないようです。 

TaskRabbitでは登録者の10%ほどがTaskRabbitで生計を立てているということで、大半の人にとっては副職の位置づけです。

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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