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コミュニティカレッジが無料に?!

前回のコラム(アメリカの大学は6年制?!)を書いている時に、ちょうどオバマ大統領がコミュニティカレッジの最初の二年を全面無償にする提案を発表しました。といっても、参加するかどうかは各州が決めるので、たとえ法案が通ったところで、全米のコミュニティカレッジが無償になるわけではありません。

詳細は1月20日の一般教書演説(State of the Union Address)で明かされる予定ですが、すでに各方面から賛否の声が上がっています。これは、学費の高騰でお金がなければ大学に行けないという大学教育の格差の解消が第一の目的です。

さらに、昨年のコラム(大学を出ても職がない(3)–人材需給のミスマッチ)のように、アメリカではコンピューター技術、看護、熟練製造などの中間スキル(高卒以上四大卒未満)が不足しているので、コミュニティカレッジで、そうしたスキルを身につけた人材を増やしたい、という狙いもあるのではないでしょうか。(学費無償にはGPA2.5* を維持するというのが条件なのですが、これは低すぎるので、四大への編入希望者をターゲットにしているとは思えないのです。)

反対派は、10年で600億ドルにのぼるといわれる費用を問題視しています。連邦政府が75%、州政府が25%負担するということなのですが、州立大学の予算をどんどんカットしている州では、25%捻出できるものなら四大に予算を回したいところでしょう。

また、コミュニティカレッジ入学希望の低所得者には、すでに奨学金(Pell Grant)があるので、新たな仕組みで助かるのは成績がイマイチの中流家庭以上の学生らとも言われています。(裕福家庭の子息も無料でコミュニティカレッジに行けることになり、その費用を自分の子どもは大学に行っていない中流家庭以下も税金で負担しろというのには納得できない人もいるでしょう。)

オバマ大統領の案は、昨年から始まったテネシー州のコミュニティカレッジ無償プログラムがモデルになっているのですが(費用は宝くじ収益金で捻出)、無償になった途端、予想の倍を上回る、州の高校3年生の9割が願書を提出したというのです。

現時点ですでに、学生が多すぎて必要な科目が取れないコミュニティカレッジが多いのですが、無償になれば、さらに学生が増えて科目が取りにくくなるでしょう。

また、前回書いたように、コミュニティカレッジの学生の7割が大学の数学の授業を受けるだけのレベルではない状態で、学生が増えれば、さらに補修授業が必要になると思われます。(コミュニティカレッジが高校の補修校化?)

私がビジネススクールに入学した際、入学前の必須受講科目(prerequisite)に微分積分があったのですが、「日本で高校のときに学びました」というのが聞き入れられず、仕方なくコミュニティカレッジで取り直しました。そのクラスには「-1-1」の計算の仕方がわからず、100点満点のテストで8点を取るような学生もいました。(四大でも分数の計算ができない人もいますが。)

前回見たように、アメリカの大学の問題は進学率より卒業率なので、さらに多くの学生を大学に送り込むより、今、在籍中の学生をいかに卒業させるかに力を注いだ方がいい、と思っているのは私だけではないようです。

法案は、共和党が牛耳っている議会をまず通らないので、絵に描いた餅に終わると思いますが。(それがわかっていて、共和党を悪く見せるための民主党の作戦だという声もあります。)

コミュニティカレッジへの留学

たとえコミュニティカレッジが無償になっても、留学生に恩恵は及びません。それどころか、アメリカ人学生の学費が無料になった分、留学生向け学費は上がる可能性もあります。

私は、常々、語学留学するくらいなら、コミュニティカレッジや四大の公開講座(Extension)に留学する方がいいと思っています。英語学ぶのでなく、英語学ぶ方が学べることが多く、その後のキャリアに役立つと思うからです。

一方、日本で大学を卒業しているのに「大学院は難しすぎる」と海外の大学の学部に留学する人もいますが、私は、すでに大学を卒業している人には大学院の入学を強く勧めています。

ただし、こんなケースもあります。カリフォルニア時代に知り合った日本人留学生なのですが、日本で大学を卒業しているのに、コミュニティカレッジでOffice Administrationを勉強していました。その人は、コミュニティカレッジをちゃんと2年で卒業し、日本に戻った後、アメリカ大使館にSecretaryとして勤めました。その後、昇進して補助職でないプロフェッショナルの仕事に就きました。

 「日本で大学を出ているのに、コミュニティカレッジ留学はもったいない」と思っていた私ですが、希望通りの就職、予想以上のキャリアアップをし、十分に元を取った彼女に脱帽です。

* GPA (Grade Point Average)は、最低0~最高4.0の成績評価平均点。A~F評価であれば、GPA 2.5はC+に匹敵。

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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