Global Career Guide

キービジュアル キービジュアル

クルーズ船でグローバル力を養う (9) - 乗務員として(後編)

クルーズ船の乗務員は、Officer、Staff、Crewの階級に分かれています。Officerとは上級船員で、船長をはじめとする航海士、機関士(Engineer)、ホテル支配人(Hotel Manager)やパーサー、エンタテーメントの責任者であるCruise Directorなど資格や経験を要します。

多国籍・多文化チームを率いるので異文化管理スキル、かつ英語による高度なコミュニケーション能力が求められます。Officer職にはアジアや東欧の出身者もいますが、先進国出身者が中心です。

Officerは、肩章のついた制服を着ているので一目瞭然です。乗客向けゲームなどでも、Officerチームとして参加することもあります。Officerは船室は個室をもらえ(乗客よりいい客室の人も)、乗客向けエリアも利用できます。(乗客用のブッフェで食事をしている姿を見かけることもあります。)

Staffは、Front Desk/Guest Relationsなどのオフィス職、Cruise Directorの下で働くエンタテーメント職、カジノ職、フォトグラファーなどです。船室は相部屋となり、二段ベッドが標準のようです。

そして、乗務員の大半を占めるCrewは、ウエイターなどの飲食部門、コックなどの調理部門、客室清掃(Housekeeping)部門などで働く人たちです。船室は、やはり相部屋で、4人部屋というのもあり、トイレは共同のCruise Lineもあるようです。勤務時間以外は、乗客エリアには出入りできません。Crewは新興国の人が中心で、はっきり言って出稼ぎ労働者です。

顕著な経済格差

12月に乗ったクルーズ船でSpecialty Restaurantでウエイトレスとして働いていたインドネシアの女性は、産後数ヶ月で子供を親に預け、夫とともに同じ船で働いているとのことでした。

大卒の彼女はインドネシアで米系大手ホテルに勤務経験があり、日本の系列ホテルで半年研修を受けたことがあるそうです。インドネシアでも就職口はあるようですが、クルーズ船ではドル建てで(現地の何倍も)稼げるのが魅力と言っていました。

驚いたことに、そのSpecialty Restaurantでお客が渡すチップは、そのレストランの給仕スタッフではなく、ブッフェのスタッフに回るとのことでした。彼女は感じもサービスもよかったのですが、いくらいいサービスを提供しても、彼女にはチップは行かないという不条理な仕組みです。

なぜか、どの船も調理関連はインド人が多いのですが、ある船でブッフェで朝食のオムレツ(自分で具を選べるオーダーメード式)を焼いていた青年は「僕はMBAを持っているのに、インドでは仕事がない…」と不満をもらしていました。いやいや働き感がムンムンでしたが、彼が焼いたオムレツは、他の人が焼いたのよりおいしかったです。

このように、先進国出身であれば大卒以上でCrew職の人はまずいないのですが、新興国出身者は、数ヶ国語話せる人でも大半がCrewで、国家間の経済格差が顕著に現れます。

労働条件は悪化?

その船では、ダイニングルームのアシスタントマネジャーもインド人で、私が「インド料理大好き」と言うと、「シェフがインド人だから」と頼んでもないのに、夕食時に私のために本場インドのおいしいチキンカレーを作って持ってきてくれました。

乗客にとっては、こうして各国の乗務員らとおしゃべりをするのも楽しみのひとつなのですが、昔に比べると、一人が受け持っている職務が多いような気がします。今回のクルーズでも、ダイニングルームのウエイターらは乗客とおしゃべりをする暇などなく走り回っていました。

実際、乗務員の労働時間は増える一方、賃金は下降気味のようです。給料が15~40%減ったという機関士もいます。ドミニカ出身のウエイターが「責任だけ増えて給料は変わらないから昇進なんてゴメンだ」と言っていましたが、それは業界全体の傾向なのかもしれません。

また、昔は先進国で占められていたOfficer職も、最近では新興国出身者が増えています。先日、書いたように、クルーズ会社の大半はアメリカ企業なのですが、客船の船籍はアメリカ以外も多く、他国に置くことで労働ビザや最低賃金、労働環境などアメリカの労働法違反を回避できるわけです。

クルーズ業界は、グローバル経済の縮図といえるかもしれません。

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

カテゴリー一覧