Global Career Guide
前回、辞書の問題点について軽く触れましたが、これは著書「ロジカルイングリッシュ」ではスペース的に書けず、実は強く言いたい点なのです。
とくに英語初級者の人は「辞書に載っていることはすべて正しい」と信じています。私が「英語では、そういう表現はしない」と言っても、「そう辞書に載っていました」と反論する人もいます。
とくに和英辞典は信用できません。私自身、英語学習者時代に、和英辞典ではイタイ思いをしています。
まず、英和辞典や和英辞典を作っているのは、どういう人たちでしょうか?日本在住の英語学者・教授など、小規模の辞典であれば英語教師や出版社の編集者が作っている場合もあります。辞書の製作・編集者が、辞書で説明している物や事象を自分の目で見たことがないケースも多々あるのです。
昔、英語の文書の和訳に日本在住の翻訳者を雇った際に、アメリカの郵便の”return receipt requested”の訳がおかしかったのを覚えています。
”…mailed by registered or certified mail, return receipt requested”(受取証明付き書留郵便または配達証明郵便で郵送され…)というのは、アメリカの契約書では定番の表現です。Certified Mailで配達証明付き郵便なのに、さらに”return receipt”とあるのが混乱の原因だったのはないかと思うのですが、英和辞典の訳をそのまま使ったようでした。
Return Receiptというのは、アメリカの郵便で使われる「(配達証明というより)受取証明」ですが、郵便を出した際に手紙の裏に貼り付ける緑色のハガキのことです。受取人は、そこにサインし、郵便局が差出人に返送します。追加料金を払い、郵便にそのハガキを貼り付けることで”requested”(受取証明を依頼)になるわけですが、このシステムを知らなければ、うまく訳せなかったり、説明できなくても仕方がないでしょう。
なお、アメリカ人でもCertified MailとRegistered Mailの違いを知らない人がいますが、Registered Mailには賠償がつきますが、Certified Mailは配達証明のみです。(なお、郵便局が引き受けを記録する日本の特定記録はアメリカのCertificate of Mailingにあたり、Certified Mailとは別物です。)
近年、アメリカではメールによる電子配達証明(Electronic Delivery Confirmation)が主流になっていますので、アメリカ人でも若い人にはReturn Receiptを使ったことがない人もいると思います。
このように、辞書の製作者は、辞書で説明している事象をすべて体験、把握しているわけではないのです。ですから「辞書は絶対的に正しい」ということはないわけです。
これは本場の英英辞書についてもいえることですが、とくに紙の辞書に載っている情報は古いことも多いです。
また、最近、私のツイッターのフォロワーさん数人がショックを受けていましたが、英語学習書専門出版社のウエブサイト・アプリの表現にも、多々、間違いが見られます。たとえば、『ロジカルイングリッシュ』でも紹介した「(明日は)予定が入っている」という意味の”I have plans (tomorrow).” のplanは通常plansと複数ですが、’I have a plan”と載っています。(A planの方がplansよりフォーマルで具体的な計画。)
ですから、私がお勧めしているのは、辞書よりもネット検索でネイティブスピーカーの表現を調べることです。たとえば、”It’s raining heavy”という表現が英語的に正しいかどうかを知りたければ、”(It’s) raining heavy”を検索してみればいいのです。(正しくは”It’s raining heavily” または”It’s raining hard.”)
ただし、ネイティブでも非標準(substandard)の表現を使う人たちは大勢おり(たとえば、anyways, Me and my friend did…, She don’t…, We was…など)、ネイティブが使ったからといって文法的に正しい表現とは限りません。(英語のテストでも間違いとみなされないような)標準的な表現が知りたければ、Newsを選択して検索することです。
前々回、画像検索の話をしましたが、「百聞は一見に如かず(Seeing is believing)」で、「○○って何のことだろう」と思えば、Imagesを選択して検索するといいでしょう。
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。