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マレーシアは、16世紀にポルトガル、17世紀にオランダの植民地となった後、19世紀にイギリスの植民地となりました。(アヘン戦争に敗れ困窮した)中国や(英領であった)インドからの移民の多くは、英植民地政策の下、ゴム農園や鉱山での労働力として流入しました。
キリスト教布教を目的としたミッションスクールは、英統治時代以前からありましたが、英統治機関によって、西洋の価値観を備えた現地人エリート養成のために英語で授業が行われる英語学校も開設されました。
20世紀に入ると、英語学校、マレー語学校、中国語学校、タミール語学校で、それぞれの言語とカリキュラムで教育が行われるようになりました。しかし、1957年にイギリスから独立し、国家統一のために憲法でマレー語が国語として制定されました。その後、10年間は公務には英語の利用も許されましたが、1967年にはマレー語が唯一の公用語となり、公立学校ではマレー語が必須科目となりました。これが一因となった1969年のマレー系と華人間の対立暴動の結果、英語学校はマレー語学校に転換され、1970年半ばまでに消滅しました。(今の50代が、英語学校に通った最後の世代。)
公立小学校はマレー語、中国語、タミール語、それぞれの民族母語で教える学校に行けるのですが、中学以降はマレー系に統一されます。中華系やタミール(インド系)の小学校を卒業した生徒は、この際に一年、マレー語の集中講義を受けることになります。
中華系やタミール系の小学校ではマレー語が第二言語、英語が第三言語として、マレー系小学校では英語が第二言語として教授されています。(小学校から習っているのに、まったく喋れない人やブロークンの人が多数いるというのは…)
マレーシアでは「グローバル化の波においていかれないように」と、2003年から理数系科目は英語で行われることになったのですが、2009年にマレー系を中心に抗議運動が起こり、2012年には全教科がマレー語による授業に戻りました。
「若い世代の方が英語が話せない」という背景には、上記のような歴史があるのです。実際、マレーシアでは、最近、若者の英語力低下に対し”English Crisis”が叫ばれています。(私の知人は「そんなものは40年前から始まっている!」と怒っていますが。)
たとえば、公立大学入学にはマレーシア大学英語検定受験が必要ですが、他の科目はすべて合格点なのに英語だけが合格点に足らず、進学できないという生徒が増えています。最近では、英語の講義や教材についていけず、医大生1000人(何人中?)が医者になるのをあきらめたとことが話題になりました。
私もネットで知り合った(マレー系)大学院生2人の論文を見たことがあるのですが、英語はちょっと手を入れれば何とかなるレベルではなく、一から書き直さないといけないレベルでした。一人はアメリカの大学でバイオ化学技術分野で博士課程への進学を希望していたのですが、断念して就職しました。
高校まで公立学校に通った学生の場合、大学に入った途端、国立でも理数系の授業は英語になるので(私立は全教科)、ついていけなくなる学生が結構、出るそうです。
来年から中等教育修了資格試験(この成績で高校後の進路が決まる)で英語も必須科目になる予定だったのですが、そうすると生徒の25%が不合格になるとの試算から先送りとなりました。
中学校の英語教師には、小学校で英語を学習したはずの新入生が英語の基礎を身につけておらず、「どうやって英語を教えればいいのか」と途方に暮れる人もいるようです。
同時に、「学校の英語教師が英語を話せない」という点も問題になっています。2年前、(本来、受講すべき英語学習講座レベルを見極めるための)Cambridge English Placement Testを受けた英語教師の7割が英語を教えるだけの英語力がなかったそうです。
私の知人(ミッションスクール出身者)の娘さんはマレー系の公立学校に通ったのですが、英語が話せるようになるよう、家では夫婦とも福建語以外に英語でも話すよう努めたそうです。10年以上前の話ですが、娘の学校の英語教師の英語力を探るために英語で話しかけたところ、返事がマレー語で返ってきたため、「この先生は英語ができない」と確信したとのことです。
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。