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前々回、在米パキスタン人の知人が訛りのために「アメリカ人に言っていることをわかってもらえない」という話をしましたが、インドを含む南アジアの訛りに苦戦する人は多いです。(在米の南アジア系の訛りがわからなければ、本場の訛りは絶対に無理!)
10年ほど前、アメリカ企業が競ってコールセンターを海外に移した際、アウトソース先の大半はインドでした。しかし、「オペレーターの言っていることがわからない」という顧客が続出し、多くの企業がコールセンターをアメリカに戻す(賃金が低い地方に)か、フィリピンに移しました。世界的にも、数年前にフィリピンがインドを抜いて、世界のコールセンターハブとなりました。
訛りだけでなく、やはりインド独特の表現もあり、Hinglish(Hindi+English)には、たとえば、下記のような表現があります。
My head is paining. = I have a headache. (これはアメリカ人には”My head is painting”に聞こえる!)
Mother serious (in hospital). = Mother is very ill.
下記は、2005年に当時のシン印首相が、経済学で博士号を取得した母校のオックスフォード大学で行ったスピーチの一部です。
Of all the legacies of the Raj, none is more important than the English language and the modern school system. That is, if you leave out cricket! Of course, people here may not recognise the language we speak, but let me assure you that it is English. In indigenising English, as so many people have done in so many nations across the world, we have made the language our own. Our choice of prepositions may not always be the Queen’s English; we might occasionally split the infinitive; and we may drop an article here and add an extra one there. I am sure everyone will agree, however, that English has been enriched by Indian creativity as well and we have given you R.K. Narayan and Salman Rushdie. Today, English in India is seen as just another Indian language.
(“Of Oxford, economics, empire, and freedom,” The Hindu 2005年7月10日)
訳:数あるイギリス統治の遺産で、何よりも大事なのは英語と近代学校制度です。ただし、クリケットを除いては!もちろん、こちらの方々には我々が話す言語を理解していただけないかもしれませんが、間違いなく英語ですので。英語を現地化する上で、世界の多くの国の人々が行ってきたように、我々も独自の言語を編み出しました。我々が使う前置詞は必ずしもクィーンズイングリッシュではないかもしれません。[i] 我々は時に不定詞を分離することもあるかもしれません。また、冠詞を省いたり、余計な冠詞を加えたりすることもあるでしょう。しかし、R.K.ナラヤン(印作家)やサルマン・ラディッシュ(印出身の英作家)を英語の世界に送り出したように、インドの創造性で英語は豊かになったことに皆さん、同意していただけると思います。今日、インドの英語はインドで話される言語のひとつに過ぎないのです。)
これは「Hinglishのどこが悪い。英語を豊かにしてやったではないか」と、まさにシナリオ1ではありませんか! 実は、World Englishesというコンセプトを生み出したのも、米大学のインド出身の社会言語学者なのです。
世界的にインドはアメリカに次いで英語話者が多い国です。インドでは英語はヒンズー語と並んで公用語であり、英語話者は1億2500人以上にのぼります。しかし、これは人口の1割にすぎません。インドの人口は、まだ増えていますし、英語で授業をする学校も増えており、インドの英語話者は、今後さらに増えそうです。
ひょっとすると、世界の英語はHinglishに収束する、というシナリオ2もありかもしれません。
[i] インド独自の前置詞の用法といえば、今日、インドを舞台にしたNational Geographic Wildの番組を見ていると、”Help in Suffering”という標識が出てきました。”Help for Suffering”(苦しむ人のための支援)という意味でしょう。
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。