Global Career Guide
前回、紹介したフランスでの勤務時間外の仕事メール規制のニュースは「世界初のつながらない権利(the right to disconnect)」として英米でも話題になりました。
「すでに勤務時間が週35時間で、年次有給休暇30日のフランスで、うらやましい限り。フランスに移住すべき理由がひとつ増えた」という論調もあるものの、とくにアメリカでは「こんな規制、アメリカでは無理だね」という声が多く、「雇用主にプライベートも尊重してくれなんて、ひと昔前の話、いや異国の考え方か」という皮肉から、「たまったメールを処理するのにサービス残業が増えるだけ」という現実派(企業戦士?)、「これでは企業の生産性が落ちる。仕事と生活の調和(work life balance)は、社員と企業の両方にやさしい形で達成できる」という企業擁護派、「なんで規制を増やして、さらに社会主義に向かうの?」という「社会主義的なヨーロッパの真似は御免」派まで。
また「こうした法律は症状に対処しているだけで原因の解決にはならない。企業が扱うメールの量は年々増えており、管理職は勤務時間の半分を不要なメールに費やしている。社内でやりとりするメールの量が減らない限り、こうした法律ができても効果は望めない。業務メールを勤務時間内に処理し、他の仕事を勤務時間外にする社員が増えるだけ」という手厳しいコンサルタントも。
ちなみにアメリカでは、24/7でユーザをトラッキング可能なGPSアプリの使用を強制された営業ウーマンが「アプリを削除したためにクビにされた」と昨年、元雇用主を提訴したケースがあります。
実はフランス国内でも、こうした法律に反対する声はあり(賛成派は6割)、夜間は社内メール配信が遮断されるという金融機関社員には「メールをチェックするかどうかは個人の選択。携帯の電源を切るように強制されたくない」という人もいます。
勤務時間週35時間のフランスですが、アンケート調査によると、帰宅後、自宅で仕事をする管理職は75%、週末や休日も仕事をするという管理職は半分以上にのぼっています。
IT系でも「当社ではインドや中国、アメリカの開発業者と競合している。(時差のために)世界各地のクライアントや提携先とは夜しか話せないこともある。他国の競合他社は、そんな制約はない。こんな法律、自分で自分の首を絞めるようなもの」という声も。時差の問題は切実ですね。
私がコンサルティング業を営んでいた頃、日本が朝になると日本のクライアントからメールが入ってくるのですが、アメリカは夜。メールにすぐに答えると「有元は夜間でもメールを読んでいる。すぐに返事してもらえる」と思われるので、夜間には読まない、読んだとしてもアメリカの朝まで返信しないようにしていました。人間、「あたり前」になってしまうと「あたり前」に事が進まないとイライラしてしまうもの。「あたり前」と思わせない工夫も必要ですね。
私がアメリカで長年、使っていたコーヒーカップには、こんな標語が。
Your lack of planning is not my emergency.
(そっちが無計画だからといって、こっちのお尻に火がつくわけじゃない。→ なんでアンタの無計画のせいで、私がせかされるわけ?冗談じゃない。)クライアントや上司には口が裂けても言えないですけどね…
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。