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従業員のストレス削減のためにフランスで今年から施行された法律ですが、実は、昨春に仏労働市場の自由化を図るために成立した労働市場改革法の一部なのです。
フランスは経済の低迷や政府債務の増加などで、「ギリシャの次に破たんする」とも言われています。とくに失業率が高いのが問題で、金融危機後、失業率が高騰したスペインでは低下傾向にあるものの、フランスでは下がる兆候が見られないのです。
慢性的に高い失業率(10%)、伸びない雇用の原因は労働市場の数々の規制とされ、労働法改正が急務とされています。(労働者寄りの)社会党政権が議会での法案通過は無理と判断し、政府命令(décret)で強硬に成立させたくらいです。
しかし、労組や学生らによる大規模デモ、数々のストなど労働者の大反対に遭い、譲歩せざるを得ず、企業側からも「こんな非改革法、もう要らん」と言われるくらい骨抜きになり… 100年以上前に作られた労働法典は3000ページ以上にも及び、世界で一番複雑といわれる労働法が、今回の改正でさらに複雑になったいう声も。
フランスでは、社員をいったん雇うとクビにするのがとてつもなく難しいため、企業も新規雇用に後ろ向きとならざるを得ません。
私のアメリカの友人(日本人女性)に米最大手企業の管理職(director)をしていた人がいます。フランス支社の管理も任された際、勤務態度の悪いフランス人社員をクビにすることが直近の任務のひとつだったのですが、その社員に「クビにできるものならやってみろ。フランスでは社員をクビになんてできないんだよ~」と挑戦状を叩きつけられていました。四苦八苦した挙句、クビにできたようですが。
労働法は社員11人以上の零細企業に及ぶものまであり、雇用を創出し、経済の牽引が期待されるスタートアップも縛られる状況。
ヨルダン旅行中に知り合ったフランス人はゲーム販売業を営んでいるのですが、できの悪い社員をクビにできず困っていたときに思いついた苦肉の策–「こんなところで働いているより、君にはもっといい仕事があるよ」と根気よくおだてて自主退職に導いたそうです。
Brexit(英EU離脱)の波に乗り、海外企業を誘致したいフランスですが、仏労働法は在仏外資に非常に不評で、在仏日本企業も頭を悩ましているようです。
日本でも正社員をクビにするのは難しいので、非正規雇用という枠が設けられ、グローバル化による競争激化に対応したわけですが、フランスでは新規雇用の87%が非正規(有期)雇用、それも、その70%が雇用期間が1か月未満ということです。なお、仏被雇用者の85%は正規雇用で、非正規雇用の大半が若者や低スキル労働者など、一部の層にシワ寄せが行き、格差の原因ともなっています。
ただし、クビにするのが簡単なアメリカでも、金融危機後、短期・契約社員は増えているので、労働市場の硬直性だけが理由なのかどうかは疑問です。エコノミストにも、雇用を左右するのは労働法よりも経済成長という人もいます。
イギリスのBrexit国民投票、米大統領選に続き、注目を浴びているのが今春の仏大統領選挙。やはりグローバル化に“置いてきぼりにされた”人たちが勝敗を左右するのでしょうか。
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。