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日本にもあった同一労働同一賃金(短時間正社員制度)

「同一労働同一賃金」の話で思い出したのですが、実は、私は30年も前に、そうした制度を取り入れていた日本の大企業で働いたことがあるのです。

その会社には短時間正社員制度があり、一日4時間勤務で、週に3日勤務か5日勤務を選べました。給料は月給制で、賞与もあれば退職金、有給や病休、生理休暇もあり、厚生年金にも加入できました。社内の福利厚生施設もフルタイムの職員同様、利用でき、社内のサークル活動にも参加できました。(私がスペイン語と出会ったのはスペイン語サークルで。)

同じ職種のフルタイム勤務の人と異なるのは、勤務時間が短い点と昇進の機会がない点だったと思います。 

入社試験もあり(受からなかった人も多数)、入社式もありました。入社式の祝辞で「皆さんも正式な社員ですので」と上層部の人から言われ、背筋が伸びる思いがしたのを覚えています。当時、同社は短時間制職員として(外国語のできる)大学生を雇っていたのですが、バイト感覚の学生に対し、何かにつけて「皆さんは社員ですので」と言われたように思います。

大学卒業と同時に退職して、別の企業にフルタイムで勤める人が多かったのですが、中には、卒業後も、そのまま短時間社員として勤め続ける人もいました。結婚して主婦をしながら勤める女性、大学院に行きながら、または司法試験などの勉強をしながら勤める男性もいました。

私は大学二年に入社し、卒業後も一年、昼間、別の職場で翻訳の仕事をしながら、夜3日は同社で働き続けました。(ただし、仕事の内容は先のない単純作業だったので、その後、外資系に転職しました。)

パートタイム大国オランダ

同一労働同一賃金だけでなくワークシェアリングが浸透しているオランダでは、管理職やエンジニア、外科医、弁護士などでもパートタイムで働く人たちがいます。

「子育ては母親の仕事」という価値観が強かったオランダでは、政府が女性の就労を促進するために、1996年にパートタイム勤務にもフルタイムと均等の待遇を義務づけたのです。その4年後、労働者が雇用主に勤務時間の増減を請求できる労働時間調整法も制定されました。

そうした制度のせいか、オランダでは働く女性の77%がパートタイム勤務(2014年時)と他のOECD諸国と比べて飛び抜けて高いのです(日本は48%)。一方、女性の管理職は非常に少なく、パートタイム勤務では管理職になりにくいという傾向も見られます。(オランダでは「プライベートを大事にし、そこそこ働きたい」という女性が多いのも一因か。)
ただし、男性のパート勤務率(27%)も他のOECD諸国に比べ高く、男性のパートタイム勤務が増えることで(!)、パートタイム勤務でも管理職に昇進する機会が増えているようです。

フルタイム社員の意識改革

2014年のパートタイム労働法改正で正社員との差別的扱いが禁止されるパートタイム労働者の範囲が拡大され、日本でも短時間正社員制度を取り入れる企業が増えているようです。政府は、導入企業を2014年の15%から2020年に29%への引き上げを目標としています。

日本語の「パート」は法的に定義された「パートタイム労働者」(アルバイトも含む)の略で、通常の労働者よりも労働時間や日数が短い労働者のことなのですが、「大した仕事をしてない人」みたいなニュアンスがあって見下す人も少なくないですね。上記の私の元職場でもフルタイム勤務の人が、会社の方針に反し、(まったく同じ仕事をしている)短時間社員を「バイト」と呼ぶ人もいたようです。

「同一労働同一賃金」体制の整備されることによって、こうした「フルタイム勤務以外は規格外」のような偏見がなくなることを期待したいです。長い人生、今、フルタイムで働いている人だって、親の介護などで、いつ「パートタイムで働きたい」と思う日が来るかもしれないのですから。(年いくと、若い時には想像がつかないことがいろいろ起こるんだってば。)

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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