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新年おめでとうございます。早いもので、このコラムを書き始めて、今年で11年目になります。今年もよろしくお願いします。
さて、「プレゼンの英語」は、前回で終わるつもりだったのですが、昨年、取り上げた「つかみとしてのユーモア」に関して、悪い例をあげて、注意喚起をしたいと思います。
昨年10月に、ある市長が来賓あいさつをした際に、冒頭で「あいさつとスカートは短い方がいいということで、さくっと終わらせたい」と発言しました。同市長は不適切な発言として、すぐに謝罪したようですが、「場を和ませようという意味で使わせていただいた」と弁明しました。
気を付けなければいけないのが、まさに、この「場を和ませよう」なのです。スピーチやプレゼンの目的は、笑わせることではないはずですが、「場を和ませたい」「聴衆を笑わせたい」という気持ちが先走り、不必要なこと、不適切なことを言ってしまいがちなのです。
日本でも、こうしたハラスメント発言は許されなくなっていますが、海外でスピーチをする機会のある方は、うっかり、こうした発言をしてしまう可能性がありますので、日ごろから意識して気を付けてください。
それをやってしまったのが、元防衛大臣の1人です。2017年にシンガポールで行なわれたアジア安全保障会議(Asia Security Summit)に出席した際のことです。同会議には、他にも女性の大臣が2人、オーストラリアとフランスの国防大臣が出席していました。同氏は、演説の中で、英語で下記のように述べたのです。
We belong to the same gender … the same generation and, most importantly, we are all good looking.
(私たち3人は、同じ女性で、同じ世代で… 一番大事なのは、3人とも美しい点です。)
この発言も、大臣が「場を和ませよう」と思ってのことだと推測します。こうした発言は、日本ではジョークとして受け入れられていたのでしょうか…?
まず、人の容姿に触れるのはタブーです。(自分の容姿だけならまだしも、他国の大臣2人を巻き込んでいる…) そして、21世紀になっても、大臣になるような地位の女性の口から女性蔑視的な発言が出てくるとは、耳を疑った人も多いでしょう。この発言を聞いたアメリカ人男性も、”Wow, she’s diminishing herself”(自分で自分の価値を下げている)と驚いていました。
こうした発言をすることが事前にわかっていれば、関係者が止めたのではないかと思うのですが、原稿にはないアドリブだったのでしょうか。
もし「誉め言葉なんだからいいでしょう」と思っている人がいれば、完全に時代遅れです。そういう人は、海外でスピーチをする際には、原稿はすべてネイティブか現地の事情に長けている人にチェックしてもらった方がいいです。
実は、その数年前にオバマ大統領も同じような失言をしています。2013年に行なわれた政治資金パーティー(fundraiser)で、当時、カリフォルニア州の司法長官だったカマラ・ハリス現副大統領の容姿に、下記のように触れました。
She also happens to be, by far, the best-looking attorney general in the country.
(彼女は、この国で、ずば抜けて一番美しい司法長官でもあるんです。)※good-lookingの最上級
It’s true! Come on.
(ホントだってば!)
と言うと、聴衆は笑ったそうですが、失笑していた人も少なくないでしょう。(上記の大臣と同じで、言われた方が、どんな顔をしていいのか戸惑うと思う。)
翌日、ホワイトハウス報道官(press secretary)が、「昨夜、オバマ大統領がハリス司法長官に電話をして謝罪した」と伝えました。さらに「オバマ大統領は、司法長官の専門家(法律家)としての業績や能力を軽視する意図はまったくなかった…大統領は、女性が職場で直面する障壁のこと、女性は容姿で評価されるべきでないことを十分認識している」ともつけ加えました。
「By far, the toughest attorney general(ずば抜けて、もっとも手厳しい司法長官)と言った方がよかった」と書いたアメリカ人女性記者がいたように、誉めるのであれば、その人の仕事での業績を誉めるべきなのです。こうした失敗をしないように、政治やビジネスの世界では、性別に関係なく、その人の容姿には触れないことを肝に銘じてください。
スピーチやプレゼンではないのですが、先月のクリスマスの際に、アメリカの知人から、下記のように書かれたメールが届きました。
Meri Kurisuma!
日本語的な発音でMerry Christmasを表したかったのでしょうが(間違ってるし)、このように民族的な発音・訛りを面白おかしく真似るのもやめた方がいいです。この男性は黒人なのですが、もし私が黒人の発音をもじって”Yo, Me Kismas”なんて彼に送ったら、私が差別主義者(racist)のレッテルを貼られたことは間違いありません。(この人は、以前から、黒人に対する差別には敏感にもかかわらず、アジア系に対する偏見や差別には鈍感です。)
アメリカのstand-up comedyでは、こうした人種・民族ジョークで笑いを取ることは普通に行われていますが、スピーチやプレゼンで同じようなことをすれば大問題となります。それも、黒人コメディアンが黒人をあざ笑うのは許されるものの、非黒人コメディアンが黒人をあざ笑うようなことは許されないといった暗黙のルール、社会の掟もあります。そうしたルール・掟を知らない人が冗談でやってみるものではないのです。
なお、性的指向や性自認についても同様です。性的マイノリティをからかうような冗談も許されません。
「何がセーフで何がアウトなのかわからない」という人は、場を和ませたり、聴衆を笑わせることなど忘れて、スピーチやプレゼンの本題に集中しましょう。
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。